菌活で広がるきのこの世界

「きのこを愛でる・採る・食べる」をめいっぱい楽しむ〝菌活〟。その活動をライフワークとする「きのこ博士・牛島先生」が、鳥取県で見られる種をレクチャー。メイン写真をクリックすると、食用か否かがわかる、隠れコメントもあり!

文・写真/牛島秀爾

食用? 毒? 写真をクリック

出合えたら奇跡!地中で生きるきのこ

【ショウロ(松露)】

 きのこは、地面や枯れ木に生えるのが一般的だが、地中に生える種類(地下生菌)もある。松林におけるその代表格がショウロ(松露)だ。マツと共生する外生菌根菌で、春と秋、下草のないきれいな砂地の若いマツ林や、樹下がコケや地衣類(ちいるい)(※1)で覆われている環境でよく見つかる。マツの根っこの先端付近に生えていることが多く、地表が不自然にひび割れていたり、ショウロの頭が少し見えていたりするので慎重に観察してみよう。

 ()実体(じつたい)(※2)はいびつな球形で、大きさは1~5 cm。表面は始め白色で、次第に淡褐色のち黄褐色になり、傷がつくと赤褐色に変わる。内部(グレバ)の断面はスポンジのような孔(穴)がたくさんある迷路状で、その孔の表面で胞子が作られる。

 きのこは胞子を自ら飛ばす種類と他者の力を利用する種類があり、ショウロは後者にあたる。ショウロのグレバが成熟すると強烈な臭いを発して小型の哺乳類や昆虫類を誘引する。そしてきのこを食べてもらい、ふんとして排泄されることで胞子を拡散させるという、一風変わった方法をとる。

 ショウロのような地下生菌のいくつかは、傘と柄のあるシイタケなどのハラタケ型から、傘も柄も内部に閉じ込められた状態のセコチオイド型を経て、傘も柄も退化した団子状の(ふっ)(きん)型という順に進化したと、近年のDNA解析を用いた研究によってわかった。またショウロは「アミタケ」と近縁であり、胞子の色が成熟すると緑褐色となることからもその進化と類縁関係が垣間見られる。

 ショウロの栽培は、宿主となるマツが不可欠である。そこで鳥取大学は、培養したショウロの菌糸が(けん)(だく)した液をマツの実生(みしょう)(なえ)に散布することで、ショウロを人工的に感染させ、きのこを発生させることに成功した。さらに鳥取県では、鳥取大学が確立した技術を用いて、大学や地元住民の協力のもと、海岸の松林の再生やショウロの復活を目指すプロジェクトを実施。ここ数年鳥取砂丘でショウロの発生が確認できるようになり、〝白砂青松〟の回帰に期待が寄せられている。

※1 菌類の仲間で藻類と共生し地衣体という構造を作る
※2 肉眼で認識可能な大型の胞子をつくるための器官

『きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活』

著者:牛島秀爾
出版社:つり人社
発行日: 2021年
サイズ:A5判(ページ数128ページ)

■このコラムに登場するきのこも紹介されています。

【Profile】
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ) 文・写真

(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所主任研究員。野生きのこの調査・分類などを行い、外来きのこ鑑定にも対応中。休日は身近なきのこを探しつつ、ブナ林の小川でフライフィッシングをしてイワナを観て歩いている。日本特用林産振興会きのこアドバイザー、鹿野河内川河川保護協会会員。