菌活で広がるきのこの世界

「きのこを愛でる・採る・食べる」をめいっぱい楽しむ〝菌活〟。その活動をライフワークとする「きのこ博士・牛島先生」が、鳥取県で見られる種をレクチャー。メイン写真をクリックすると、食用か否かがわかる、隠れコメントもあり!

文・写真/牛島秀爾

食用? 毒? 写真をクリック

(はかな)くも美しい森の小人

【イヌセンボンタケ(犬千本茸)】

 まるでガラス細工のように(はかな)げな「イヌセンボンタケ」。世界の温帯から熱帯まで広く分布し、日本では夏から秋にかけて道端や森の中の栄養の多い地面、朽ち木の周り、こけむした道路の表面からおびただしい量が生える。学名「Coprinellus disseminates」の(しゅ)小名(しょうめい)disseminatus」は、〝あらゆる方向に繁殖する〟という意味から付けられた。

傘の直径は5~15 mmほど。傘は、幼菌のときは白色の卵形で、次第に灰色となり釣鐘形(つりがねがた)に開き、中心部は褐色、表面には放射状の線が目立ってくる。
 柄は1~3mm程度でとても細くて(もろ)い。なお、幼菌のときの傘や柄には細かい毛があり、虫眼鏡で見ると粉を吹いたように見えるのもおもしろい。

 イヌセンボンタケの「イヌ」には、劣るもの、無駄なもの、似て非なるものなどという意味がある。ほかにも、植物の「イヌビワ」や「イヌザンショウ」などいくつかあるが、どれも一般的な利用価値は低い。イヌセンボンタケも食用に値しない小さなきのこが千本、いやときには万本も無駄に生えるから、このような名前になったのだろう。しかし、名前とは裏腹に自然界では大事な役割を日々果たしている。腐生菌として植物や動物の遺体などの有機物を分解吸収し無機物へ還元、それを森の木々が再び利用するのだ。さらには、無葉緑ラン(※)の一種「タシロラン」の共生菌として、ランが花咲かせるための大事な栄養供給源にもなっている。
 このように、さまざまな生き物が織りなす多様な関係が、地球の自然を支えているのである。きのこもランも、自然の中で輝く姿が最も美しい。

※葉緑素をもたないラン

『きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活』

著者:牛島秀爾
出版社:つり人社
発行日: 2021年
サイズ:A5判(ページ数128ページ)

■このコラムに登場するきのこも紹介されています。

【Profile】
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ) 文・写真

(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所主任研究員。野生きのこの調査・分類などを行い、外来きのこ鑑定にも対応中。休日は身近なきのこを探しつつ、ブナ林の小川でフライフィッシングをしてイワナを観て歩いている。日本特用林産振興会きのこアドバイザー、鹿野河内川河川保護協会会員。