花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

ホピ族の長老とインディアンの精霊について 話し合う水木さん(1993年、アリゾナ州ホピ族居留地)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

母親の妖怪のデフォルメか

ホピ族の長老とインディアンの精霊について 話し合う水木さん(1993年、アリゾナ州ホピ族居留地)

 水木さんは最晩年に、『ゲゲゲのゲーテ』という本を刊行した。その中でご本人が言っている。「水木サンの80%はゲーテ的な生き方です」

 ドイツの文豪ゲーテに出会ったのは10代の末期。徴兵を前に哲学書などを読み漁っていた頃、一番気に入ったのがゲーテ晩年の談話集『ゲーテとの対話』(エッカーマン著)だった。
 水木さんは「作品より生き方が面白い」と言っている。ゲーテは文学者以外に、政治家、自然科学者でもあり、型に捕らわれぬ柔軟な知性の持ち主で、何より人生肯定派だった。

 「私はゲーテみたいに女にモテなかったけど、好きなことに熱中して、生活を思う存分楽しむ、そんな人生を送りたいと思った」と、水木さんが私に話したことがある。
 岩波文庫版(上・中・下)は、戦地にも持参した。戦後、神戸市の古アパートを購入し管理人になったのも、建物がゲーテ邸に少し似ていたせいだ。

 水木さんはゲーテの言葉を、「自分の足元を掘れ」「お金をバカにするな」「デーモンの力を信じよ」などと自分流に解釈し、人生の岐路のたびに「道しるべ」にしていたのだ。

参考文献:水木しげる『ゲゲゲのゲーテ』(水木プロダクション編、双葉新書)

妖怪ファイル>No.13

コロボックル

フキの葉の下にすむ小人

 アイヌ伝説に登場する小人(こびと)がコロポックル。アイヌ語で「フキの葉の下にすむ人」の意味である。北海道や秋田県に自生するフキは大型の「アキタブキ」という種類。高さが1.3~2㍍に達し、葉も傘のように大きく、実際に人が雨宿りできるほどだ。

 水木さんの『カラー版 続 妖怪画談』(岩波新書)によると、「気立てが良く人に対しても何のいたずらもしないが、ある時、アイヌの中に悪ふざけをした者がおり、それに怒って北の海に姿を消してしまった」という。

 人類学ではコロポックルを、アイヌ以前の先住民族とみる説がある。縄文時代に土器を製造・使用し、竪穴式住居に住んでいたアイヌより小柄な民族だ。

 同じ島国のイギリスには、ピクシーやフェリシンなど小人の妖精(妖怪)が大勢いるが、日本ではコロポックルがほぼ唯一の「小人族」の妖怪だ。

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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