「きのこを愛でる・採る・食べる」をめいっぱい楽しむ〝菌活〟。その活動をライフワークとする「きのこ博士・牛島先生」が、鳥取県で見られる種をレクチャー。メイン写真をクリックすると、食用か否かがわかる、隠れコメントもあり!
文・写真/牛島秀爾
〝名トリオ〟で森を循環
【ヒラタケ】
ヒラタケ(平茸)は、晩秋から春の寒い時期、広葉樹の枯れた部分から生える。冬、川辺の柳から生えている個体もよく見かける。傘は濃いねずみ色。ヒダは、白色から薄い灰色で柄に対して垂生(※1)する。柄は、白色で傘の中心につく場合と片側につく場合がある。
よく似た種類にウスヒラタケ(薄平茸)やツキヨタケ(月夜茸)がある。ウスヒラタケは、暖かい時期(夏から秋)に生え、ヒラタケより小型で傘色が薄い。これも幅広い料理に使える食用きのこだ。一方、ツキヨタケは毒きのこであり、ヒラタケとは形態や生態が異なる。傘は褐色から濃い紫色で、表面に鱗片があり、柄の内部には黒いシミがあるので図鑑等をよく見比べて欲しい。
ヒラタケは「線虫捕食菌」である。菌糸が、材内に侵入した線虫(※2)を捕獲して不足した窒素源を得ている。面白いのは、逆に線虫にも利用されている点だ。キノコバエの一種が媒介する線虫が、ハエの産卵とともにヒラタケに侵入し、ヒダに生じた白いコブ(線虫えい)内で成長・産卵・発育をするのだ。コブは見た目気持ち悪いが、食べても問題はない。
同じくきのこの中で幼虫になったハエは、きのこの腐敗に伴い土壌や腐植(※3)中に移動し、蛹となる。線虫はその蛹に侵入して産卵・孵化する。やがて羽化したハエが、別のきのこに産卵する時に体内の線虫も一緒に移動し、繁殖を繰り返す。
森の中では、きのこと虫と微生物が見事なバランスで絡み合って生きており、枯れ木の分解や土壌の肥沃化など、豊かな森の循環に一役買っているのだ。
※1 垂生=ヒダが柄に垂れてつく状態
※2 線虫=線形動物の総称。体長0.3~1ミリほど、細長い糸状の見た目
※3 腐植=土壌生物の活動により、動植物遺体が分解・変質した物質
『きのこ図鑑 道端から奥山まで。採って食べて楽しむ菌活』
著者:牛島秀爾
出版社:つり人社
発行日: 2021年
サイズ:A5判(ページ数128ページ)
■このコラムに登場するきのこも紹介されています。
牛島秀爾(うしじま・しゅうじ) 文・写真
(一財)日本きのこセンター菌蕈研究所主任研究員。野生きのこの調査・分類などを行い、外来きのこ鑑定にも対応中。休日は身近なきのこを探しつつ、ブナ林の小川でフライフィッシングをしてイワナを観て歩いている。日本特用林産振興会きのこアドバイザー、鹿野河内川河川保護協会会員。