すべての道は鳥取に通ず 古本屋ふまじめ乱読日記

幼少から本に囲まれた人生を過ごしてきた古書店の店主が、どこかしらに「鳥取」と縁のある本を、独自の視点で掘り下げるエッセー。また店主自らが描くオリジナルの挿絵にも注目。

文・イラスト/前田 環奈

さらば、愛しの鳥取プレイランド

「プレイランド行くで」
 まだランドセルも背負わないような幼い頃、休日になると、まれに親が発したあの言葉の、なんと甘美だったことか。
 遊園地『鳥取プレイランド』は、深い山の中にあった。向かう車の後部座席から見上げた木々の青さと、期待と車酔いが入り混じった感覚を、私は今も鮮明に覚えている。
 成長とともに、プレイランドは私の意識にのぼらなくなっていったが、大学生になったあるとき、久しぶりに噂を聞いた。閉園したプレイランドがそのまま廃墟となり、地元では有名な肝試しスポットになっているという。思いもよらぬ邂逅(かいこう)だった。

 日本全国の、すでに解体されこの世にはない〝廃墟〟46件の姿を記録した本書。あの『鳥取プレイランド』が、岩美郡(現鳥取市)国府町(こくふちょう)に所在し、わずか9年の営業期間だったこと、もはや廃墟すら残っていないことを、私は30歳を過ぎてから、本書によって知った。

 鳥取の山奥に咲き(はかな)く散った、バブル期のあだ花のような遊園地。しかし幼かった私にとって、プレイランドはまばゆい光に満ちた夢の国だった。観覧車に乗るとき、高所恐怖症の父はいつもひとり地上に残った。ゴンドラが上昇すると、大きな体の父が豆粒のように小さく見えるのがおかしくて、母と弟と3人で笑った。

 あの頃の父の年齢になり、下手に知恵をつけた私も、今や立派な高所恐怖症だ。ぐんぐん空が近づく観覧車の記憶は、もう二度と味わえない、遠い虹色の夢の世界にぽかんと浮かんでいる。

※現在は、駐車場跡地を利用したレーシングカート用の「鳥取プレイランドサーキット」が営業中。


『総天然色 廃墟本remix』

著者:中田薫(文)、中筋純(写真)、山崎三郎(編集)
出版社:筑摩書房
発売日:2014年4月10日
サイズ:幅105mm×高さ148mm

※テキストの流用や写真・画像の無断転用を禁止します。

【Profile】
前田 環奈(まえた・かんな):文・イラスト

古本屋「邯鄲堂」店主。その昔、ラムネ工場だった古民家をリノベーションした店の帳場で、本の販売をしたり、陶磁器の修理(金継ぎ)をしたり、文章を書いたり、イラストを描いたりしている。

■邯鄲堂(かんたんどう) http://kantando.blog.fc2.com