さらば、愛しの鳥取プレイランド
「プレイランド行くで」
まだランドセルも背負わないような幼い頃、休日になると、まれに親が発したあの言葉の、なんと甘美だったことか。
遊園地『鳥取プレイランド』は、深い山の中にあった。向かう車の後部座席から見上げた木々の青さと、期待と車酔いが入り混じった感覚を、私は今も鮮明に覚えている。
成長とともに、プレイランドは私の意識にのぼらなくなっていったが、大学生になったあるとき、久しぶりに噂を聞いた。閉園したプレイランドがそのまま廃墟となり、地元では有名な肝試しスポットになっているという。思いもよらぬ邂逅だった。
日本全国の、すでに解体されこの世にはない〝廃墟〟46件の姿を記録した本書。あの『鳥取プレイランド』が、岩美郡(現鳥取市)国府町に所在し、わずか9年の営業期間だったこと、もはや廃墟すら残っていないことを、私は30歳を過ぎてから、本書によって知った。
鳥取の山奥に咲き儚く散った、バブル期のあだ花のような遊園地。しかし幼かった私にとって、プレイランドはまばゆい光に満ちた夢の国だった。観覧車に乗るとき、高所恐怖症の父はいつもひとり地上に残った。ゴンドラが上昇すると、大きな体の父が豆粒のように小さく見えるのがおかしくて、母と弟と3人で笑った。
あの頃の父の年齢になり、下手に知恵をつけた私も、今や立派な高所恐怖症だ。ぐんぐん空が近づく観覧車の記憶は、もう二度と味わえない、遠い虹色の夢の世界にぽかんと浮かんでいる。
※現在は、駐車場跡地を利用したレーシングカート用の「鳥取プレイランドサーキット」が営業中。