大ベストセラー作家との出会い
*初代編集長の“ナウい”足跡Vol.2*

鳥取県の知名度アップを目指し、34年前に誕生した『鳥取now』(現『とっとりNOW』)。編集経験ゼロの初代編集長の奮闘ぶりと、各企画、取材、撮影などにまつわる奇想天外、悲喜こもごもの“ナウい”エピソード で足跡をたどる。

氷室冴子さんが執筆した特集記事

『鳥取now』は、連載以外の執筆者を毎回、特集の内容に合わせて決める。創刊当初から、少しでも売り上げに(※現在は無料)つなげるべく、著名人を選ぶ方針を掲げた。“大物”との関わりは気苦労もあったが、その選択は楽しみのひとつでもあった。

1999年、日本最大級のフラワーパーク「とっとり花回廊」(南部(なんぶ)(ちょう))の開園に合わせて、『鳥取now』42号で特集を組んだ。このとき執筆をお願いしたのが、作家・氷室冴子さんだ。

白羽の矢を立てたきっかけは、エッセー『冴子の母娘草』(集英社文庫、氷室冴子著、2022年5月復刊)。彼女は北海道の出身だが、祖先は倉吉(くらよし)市出身で曾祖父が明治時代に北海道へ移住している。その縁で、氷室さんは母親と共に鳥取県を訪れたことが綴られていた。

これはチャンス!と、執筆依頼を決意するも、当時、少女小説(ライトノベルの先駆け)の超人気作家なのだ。果たして引き受けてくれるのか。心臓をバクバクさせながらアポをとると、なんと快く承諾してくださった。

取材は2泊3日の日程で、チューリップ畑(日吉津村(ひえづそん))や、東郷(とうごう)()()梨浜町(りはまちょう))、三朝(みささ)温泉(三朝町(みささちょう))などを巡ってもらう。そして柔らかな視点と躍動感のある文体で、花回廊にふさわしく開園に“花を添えて”くれた。

その9年後、氷室さんは2008年6月6日、51歳の若さで他界。あまりにも早すぎる訃報に胸が痛んだ。取材の際には、冷静沈着、鋭い感性がビンビン伝わってきて圧倒された一方で、チャーミングな笑顔が今も(まぶた)に焼きついている。

【初代編集長M・K】

とっとりNOW42号
『鳥取now』42号(1999年6月発行)表紙