花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

トライ族の村に親友・トペトロの葬儀で訪れた水木さん (1994年、パプアニューギニアのラバウル郊外)

花咲くyokai談 水木しげると身近な妖怪たち

〝リアル鬼太郎〟は見抜いていた 

トライ族の村に親友・トペトロの葬儀で訪れた水木さん (1994年、パプアニューギニアのラバウル郊外)

 鬼太郎には実在のモデルがいた。水木さんのおい・Sさんである。紙芝居作家だった1955年頃、兵庫県西宮市で同じ家に住んでいた。私は水木さんの取材時、Sさんに会ったことがあり、当時39歳、細面で自動車会社に勤める会社員だった。

 「鬼太郎が世に登場した頃、私はまだ幼児。丸顔で小太りだったようです」

 水木さんは、3歳の頃のSさんを、「顔に髪の毛がかかっても気にせず遊びに熱中。しぐさが面白い」と回想している。墓場から蘇った鬼太郎をキャラクター化する際、活発な子どものモデルを探していたのだ。

 ただSさんは、西宮時代のことは幼すぎて記憶が薄く、覚えているのはそれから3年後の東京・調布市時代だという。

 「家が隣同士で、独身だった叔父はよく僕を自転車の後ろに乗せ、あちこち連れて行ってくれました。墓地や神社が多かったです」。貧乏でも真っ黒なバナナをくれるなど、水木さんはおいっ子に終始、優しかったようだ。

 「叔父の作品は、みな好きで昔から読んでいます。大人になって特に惹かれたのは、人生の意味や幸福を皮肉たっぷりに描いた一連の風刺漫画。他にない作品ですよね」

 確かに水木さんには、著名なヒット作以外にも希有な風刺作品群がある。〝リアル鬼太郎〟氏は、「髪の毛」の奥から、その才能を見抜いていた!?

【終】

※参考文献:『水木サンの幸福論 妖怪漫画家の回想』日本経済新聞社、2004年)

妖怪ファイル>No.16

ぬらりひょん

堂々と溶け込む異次元の怖さ

たくさんの妖怪の中でもっとも不思議な妖怪は、おそらく「ぬらりひょん」だろう。

 水木さんの『妖怪画談』(岩波書店)によると、夕方、人々が多忙な時に、どこからともなくやって来て家に上がり込み、茶を飲みながらくつろぐ。大家の旦那風に堂々としているから誰も気がつかない。そして、いつ居なくなったかも誰もわからない。

 添えられた絵には、頭でっかちの、恰幅(かっぷく)のいい和服の中年男が描かれている。

 妖怪は普通、森の中や町外れ、暗闇や廃屋など、人気のないところに出没する。だから怖いのだが、「ぬらりひょん」は、人が大勢集まっている場所に堂々と登場する。そして、異様な恰好で脅したり驚かせたりすることはなく、人の輪に溶け込み、去って行く。その「異次元の怖さ」が、〝妖怪の総大将〟と称される由縁か。

 現代社会にもスマホ片手のスーツ姿の「ぬらりひょん」が、紛れ込んでいるかもしれない。

【終】

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足立倫行(あだち・のりゆき)
ノンフィション作家。境港市生まれ。同郷の先輩である水木しげるさんに約2年間密着取材し、『妖怪と歩く ドキュメント水木しげる』(1994年新潮文庫)※を刊行。主書に『日本海のイカ』『北里大学病院24時』『血脈の日本古代史』など。
※今井書店より復刻版発売中
ミギワン
漫画家・イラストレーター。石川県生まれ、鳥取県育ち。
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