もの知り学芸員のケンパク宝箱究め話

自然史・歴史・民俗・美術工芸に関する資料を総合的に研究し展示する「鳥取県立博物館」。各分野のエキスパートである学芸員が、収蔵品にまつわる〝究め話〟を紹介。あなたの知らない鳥取県のお宝、たっぷり魅せます。

世紀の大発見!博物館資料が大きくはばたく時

【古今童謡】

 2006年、当時学芸員になって間もない私は、京都市内のとあるマンションの一室でとても緊張した場面に直面していました。それは、鳥取県立博物館で『古今(こきん)童謡(どうよう)』という江戸時代のわらべうたを集めた古書の購入を検討しており、私がその担当で調査をしていたからです。

 京都での調査後、さらによく調べてみると、鳥取藩士・野間(のま)義学(ぎがく)(1692~1732年)が1732年頃に作成した『筆のかす』という本の写本であることがわかりました。これは日本で最古のわらべうた集で、これまで原本も写本も見つかっておらず、幻の史料として長年探し求められていたものです。一刻も早く収集するために、急いで支払い手続きを整え、無事当館に収蔵しました。

 同書には、17世紀後半から18世紀初頭のわらべうたが50ほど収録されています。例えば、中国地方最高峰の大山(だいせん)が歌い込まれた「大山やまの、雪ころび、ころびや」といったわらべうたや、日本最古の鬼ごっこと言われる「子とろ子とろ」の一種である「親はとるとも」といったわらべ遊びなどがあり、江戸時代中期の子どもの遊びをうかがい知ることができる貴重な史料となっています。

 世紀の大発見後、翌年に当館の研究報告に全文を紹介、それを機縁として2016年には、今井出版から『古今童謡を読む 日本最古のわらべ唄集と鳥取藩主野間義学』として書籍化、私も著者として関わりました。また、調査の過程で本書に載るわらべうたが200年後の今も鳥取県内で歌い継がれていること、さらに世界最古の伝承童謡集とされてきた英国の『Tommy Thumb’s Pretty Song Book(親指トムの唄の本)』(大英博物館等)よりも12年さかのぼる、世界最古のわらべうた集であることも判明。調査研究の成果として、2024年に鳥取県の有形民俗文化財に指定されました。

 私にとって、博物館資料は子どもと同じで手をかければかけるほど愛着がわくものです。本書購入から20年。立派な〝成人〟となったその姿を、ぜひみなさんにも見て・知って・愛していただきたいと思います。

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【執筆者】
鳥取県立博物館・主任学芸員 大嶋 陽一
茶坊主から戦争遺跡、江戸から近代まで幅広く担当。そして子育て奮闘中!